コレクション: SDGsとTシャツプリント

SDGsが騒がれる中、アパレル業界、その中でのアパレルプリント業界が、今後どのような業態変化が求められるのかを考察していきます。

※この記事は一アパレル加工業者を営んでいる、著者村瀬晋路による個人的な見解です。


◯アパレル業界全体の闇

少し前にウイグル問題として奴隷のように働かせ、収穫された綿花を材料にして中国製のアパレル製品を販売している企業に対して叩くなどのネット炎上がありました。しかし、それ以前に最貧国として知られるバングラデシュでは、コストダウンのため劣悪な環境で労働をさせられ、事故で1,000人以上の死者、2,500人以上の負傷者が犠牲になる事故が起きています。それでもなお、日本を含む先進国から安い物を求める欲求は変わりません。数十年にわたり、経済的に弱い立場の国や人達を犠牲にして成り立っているのが今のアパレル産業です。
世界のアパレル産業の売上上位はZARA、H&M、UNIQLO、GAPを誰しもが知っているファストファッションブランドです。流行のものを最短2週間で企画から生産、販売まで行い、かつ大量生産と前途の犠牲ありきで我々は低価格で購入することができるというビジネスモデルです。

ダッカ近郊ビル崩落事故

Sharat Chowdhury - Sharat Chowdhury's facebook album, permission given by email: https://www.facebook.com/media/set/?set=a.10151367557176814.1073741835.723176813, CC 表示 2.5, リンクによる
ダッカ近郊ビル崩落事故(ダッカきんこうビルほうらくじこ)は、2013年4月24日(現地時間)、バングラデシュの首都ダッカ北西約20kmにあるシャバール(サバール、en:Savar Upazila、人口約140万人)で、8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊した事故である。死者1,127人、負傷者2,500人以上であり、1995年に韓国で発生した三豊百貨店崩壊事故を上回る大惨事になった。




次に大量廃棄の問題があります。流行があるアパレルですので人気がなければ売れ残るのは当たり前の話ですが、それを数字にすると恐ろしい事実があります。日本国内で年間10億着の新品の衣料品が廃棄になります。供給量が40億着とされているので、作った製品の25%は使われずに捨てられると言われています。企業の不良在庫の廃棄処分の他、家庭でも購入したものに限らずノベルティも、袖を通さずに捨てられるケースもあります。また、卸売業者やプリント業者などの市場に出回る前の(環境省などの統計データに出ない)不良品や仕掛品などの廃棄を含むという前提ですので、25%という数字の正確な根拠はありませんが、生産現場に長年関わっているものとしては、全くの嘘ではない数字です。

アパレルの大量廃棄


◯アパレルプリント業者の現状と少し先の未来

では国内のアパレルプリント業者にフォーカスしていきます。
ウイグル問題やバングラデシュ問題については、プリント業者の采配でどうにかなることではありません。アパレルは商流が分業されている業界ですので、プリント業者は独自で商品開発・生産もできませんし、多くの在庫を持つ体力もありません。繊維商社や、Tシャツボディメーカーに供給を頼らざるを得ない状況です。だだし、できることはあります。安すぎるボディを買わない、売らない事です。安すぎるには理由があります。
また、プリントするにあたっても「安すぎる」ボディは生産環境が悪い可能性が高く(停電が多い・水や機材が汚い等)、本来残してはいけない薬剤が付着していたり、ロット毎の品質のムラが多いため、プリントする事自体にリスクがあります。ボディの生産背景が見える(=適切に管理されている)ボディメーカーからの仕入れを選定の条件にしたいものです。

次に廃棄についてですが、一つの廃棄の理由として製品不良があります。日本人消費者独自の厳しい品質基準をクリアしなければなりませんが、製品そのものは海外で作れらています。汚れ不良であればさまざまな汚れに対して洗浄できる薬剤や設備を整えておく。縫製不良であれば、できる限りミシンでリカバリーできるように準備しておくことで、ある程度の廃棄は増やせます。

次に生産工程の中で「予備」を作ることがあります。何もトラブルがなければ予備は廃棄になります。プリント業者ができることとして極限まで生産工程でのトラブルを減らし、予備を作らないことが理想です。
余談ですが、アパレルに限らず海外の多くの工場は100作って70ほど納品できれば良い。30は捨てて当たり前。というような考え方で物作りをする方が多数派です。

最後に売り先のお客様との関係性にもよりますが、お客様へ最小限の数量を最短の納期でご提供することができれば、不良在庫が減ると考えられます。
アパレルの小売店なら毎日売れた分だけを補充するために細かく注文できれば、余分な在庫を抱える必要はありません。
ユニフォームもメンバーが増えた時点で必要数を注文するだけなら、初めに多めに注文する必要はありません。

問題点はコストです。やはり大量に作るメリットとしてコストは下がります。そして配送料金も1回で済むのか、都度必要になるのかのコストは大きく変わります。

プリント業者としてまず出来ることは、お客様への選択肢として「余分な在庫を持たなくてもOK」という提案です。
こうして小ロット・短納期が求められれば、プリント方法も変わってきます。シルクスクリーンも従来の大量生産の大型機械ではなく、小回りのきく手作業の設備が見直されていきます。インクジェットや転写はますます重宝されますし、その運用もDXが進みます。

実際こうした世の中の小ロット・短納期化の流れはコロナによって加速しました。

大型機械を多数設置していたプリント業者はコロナ禍では以前に比べほとんど稼働していません。



SDGsへの取り組みと経済活動の両立は難しい問題ですが、消費者が変われば企業も変わらざるを得ません。こうした変化に対応し、ほんの少しの改善を継続的に行う事が重要ではないかと思います。

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◯アップサイクルという考え方

廃棄予定の新品Tシャツを捨てずに、手芸用の糸(Tシャツヤーン)に作り替えるアップサイクルプロダクト「iTTo」を紹介します。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の1つである「アップサイクル」は、新しいモノ作りの方法論です。

一見「リサイクル」と同義にされやすいのですが、アップサイクルとは「廃棄される不用品に手を加えることにより、元より高い価値あるモノへ生まれ変わらせること」を指します。

廃棄予定のTシャツをひとつひとつ裁断し、縫い合わせ、撚って染色し、手作業で製品にしています。

素材であるTシャツそのものがバラバラで、加工も手作業のため風合いが一点一点異なりますがそこがまた味わいになって素敵です。

マクロの課題はとてつもなく大きな壁ですが、こうした取り組みを知るだけでも一歩先に進めるのではないかと考えています。
iTTo

プリント基礎コンテンツ
(1)Tシャツプリントの4つの加工方法について
(2)生地の素材別の対応プリント方法
(3)Tシャツプリント失敗・トラブルの落とし穴3選
(4)中学生・高校生クラスTシャツ最前線
(5)SDGsとTシャツプリント



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